Pretty Man Lyrical

主にヒップホップのリリックを掘り下げるブログ。著者のヒップホップ知識、英語力向上が趣旨

Tyler the Creatorは「Bastard」でなぜSarahを食べたのか①

さて、ドレイクはちょっと置いといて、せっかくTyler the Creatorの話になったので、今のCherry Bombを聴くからこそ、デビュー作であるBastardに戻ってみようと思う。

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Tylerは、今まで虚構を演じ、虚構にフラストレーションのはけ口を作った。そして、虚構であるが故、「これはフィクションです。実在の人物や団体とは 関係ございません。」と言い張った(Radical参照)。虚構の世界の中の設定は、ドクターTCという精神科医のもとで、タイラーが精神鑑定を受けると いうもの。3rdのWolfにおいてはちょっと違って、2人の男が女の子を取り合う、というか1人の女の子をめぐって殺す殺さないの話になる、というも の。登場人物は、タイラー本人、Wolf haleyAce the CreatorSarah(Salamと同一?)、Tron CatSam、こんなもんか。ぜんぶタイラーの脳内で起きている出来事。で、原点となるのがBastard。さらにその1曲目であるタイトルトラックで は、Gobrin~Wolfにつながるタイラーのラップのテーマが淡々と語られている。

My father's dead well I don't know, we'll never fuckin' meet
俺の父さんは死んだのか?わかんねぇよ、会うこともないだろうし

I just want my father's email
So I can tell him how much I fuckin' hate him in detail
父さんのメールアドレスが知りたい
そしたら事細かに嫌いな理由を書き連ねてやるのに

まずは父親の不在。タイラーを語るうえで欠かせないテーマ。ただまぁ、ブラックコミュニティにおいてシングルマザーというのは、日本に比べて多い。文化の 違いなんだろうが。だからタイラーが特別ってわけでもないし、弟分のEarl Sweatshirtも片親だ(ただし父親はわかってて、有名な詩人)。しかし、タイラーは父親の不在に対してひどくコンプレックスを持ってて、それが Bastardを形作ることになる。Bastardとは私生児の意味だ。

I'm tall, dark, skinny, my ears are big as fuck
Drunk white girls the only way I'll get my dick sucked
のっぽで、黒い、ヒョロくて、アホみたいに耳がデカくてダサい俺
酔っぱらった白人のオンナくらいにしかチンコをしゃぶってもらえない

Raquel treat me like my father like a fuckin' stranger
She still don't know I made Sarah to strangle her
ラクエルは父さんみたいに俺のことを知らんぷりする
代わりにサラを「作って」彼女の首を絞めてる

次に、女性に対する(自分に対する)コンプレックス。というか、女性に対しても「父親」という表現が登場するくらい、タイラーの父親への憎しみは深い。こ こでキーになる、というかこれから書いていこうとしてることの主題が、Sarahという女性。サラは、簡単に言えば脳内彼女。ただ、一口にそう言っていい ものか…。というのも、このアルバムの大半は、サラに対する暴力行為(監禁、レイプ、ビデオ撮影、そして殺害)が主な内容。普通、現実で女性にフラれたり して、妄想にふけるとすると、イチャイチャだったりエロい妄想をするはず。なぜポジティブな妄想ではなく、殺しやレイプなど激烈ネガティブな妄想をするの か。そう思ったのがこれを書くきっかけ。

もしや、殺人やレイプはタイラーにとってポジティブなことなのか…?タイラーは殺人鬼なのか…?


この疑問に関して、とりあえず「悪魔」を自称しているタイラー。

Somebody call the pastor, this bastard is so posessed
This meetin' just begun, nigga I'm Satan's son
牧師を呼んでくれ、俺は憑かれている
カウンセリングは始まったばかり、俺は悪魔の子

This album packs enough evil that you can't fit inside a jansport
このアルバムにはジャンスポーツのリュックには入りきらない悪意が詰まっている


がしかし、この「悪魔」発言は自分が出来損ない/おかしい頭の持ち主であることを自認してのものだ。ゆえに、これまた大きなテーマである自殺願望も語られる。

I know you fuckin' feel me, I want to fuckin' kill me
But times I'm so serious you think I'm silly
俺のことわかるだろ?自殺したいんだ
マジで言ってんのに、気が狂ったと思ってるだろ?

My wrist is all red from the cutter
Drippin' cold blood like the winter
手首はリストカットで血まみれ
冬のように冷たい血が流れ落ちる


ほんと、タイトルトラックのリリックを読めば、Wolfまでのタイラーのラップのテーマを全部把握することができる。もちろんこのアルバムも。まとめると以下の通り。

タイラーは父親がいないことでひどく心を痛めており、父親に対する憎み、好意を寄せる女性に相手にされなかったことへの憎みで、憎しみにあふれた脳内に なってしまった。自分でもこんなネガティブな思考じゃダメだと思いつつ自制できないタイラーは、自殺願望が強くなる。さらに、実際に殺しやレイプをしない よう、脳内にサラという女性を作った。それも含めていよいよ精神的にマズい、ということで精神科医のもとを訪れ、自分の頭の中について語っていく。

これがBastardの流れ。とりあえず、ラクエルへのフラストレーションのはけ口がサラだったのです。なのに、そんなサラをなぜ殺し、食べてしまったの か…?ということで、今後アルバムの各曲を見ていきたいと思うのです。このアルバムは、GoblinやWolfと違ってストーリーテリングではない、と思 う。なんせ、リリックを掘り下げていきます。